なぜ、人々は普通の時計に魅了されるのか

 新年、あけましておめでとうございます。このコラムももうすぐ300話に到達しようとする中で迎える新たな年、この新たな年が読者の皆様にとって幸多き年になりますよう願っております。
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 先日、かねてから気になっていたブランドの腕時計を買った。高級ブランドの時計でもなく、ファッショナブルで奇抜でもない。言ってしまえば何の変哲もない普通の時計。
 しかしコンセプトはしっかりしている。ケースと呼ばれる本体もムーブメントも日本製。組み立ても日本で行い、中間流通業者を通さず自分たちの店舗で販売する。職人たちへの支払いは掛かるが、その分流通コストを下げることで、ものづくり日本の確かな技術に裏打ちされた上質な品物を、適正価格でお客様に提供する。
 そう言ってしまえば簡単だが、その仕組みを構築するまでにはかなりの苦労や問題点があった。依頼していた工場が、今までのような手作業中心では時代遅れなので廃業すると言われたり、時計バンド用の組紐を作る工場では、素材のマッチングの問題に悩まされたり、よくここまでこぎつけたなと思うことばかり。