なぜ、優れた建築家は細部にこだわるのか

「神は細部に宿る」という言葉がある。誰の目にもすぐにわかる外見だけでなく、注意して気を留めなければ見過ごしてしまう細かい箇所にもこだわることが大切。そのような仕事の進め方こそがプロフェッショナルだと説くドイツの建築家の言葉だ。
 確かに優れた建築には、誰が見ても一目でわかる意匠だけでなく、些細な点にも細やかな仕事の跡を見ることができる。
 例えば、大きな二本の塔が天を貫かんばかりにそびえるケルンの大聖堂、そんな大聖堂でさえ、床まで細かい彫刻が施され、窓に嵌め込まれるステンドグラスは実に美しい。
 日本でも奈良東大寺の大仏も、大きな仏像でありながら、足元まで細かく掘られた装飾や、背後には小さな仏像が何体も大仏を見守っていて実に細かい。
 この「神は細部に宿る」という言葉、私自身が営業マンだった時に、私の大雑把な仕事ぶりをたしなめるために、当時の店長が私に教えてくれた言葉だ。当時私は、高い販売実績を追うあまり、商談のような大きな結果を伴う仕事を優先し、掃除や事務書類作成のような細かい仕事を先送りし、いつしかそれが常態化し始めていた。今思えば、あのまま突き進でいたら、当然今の私はここに居ないと思われる。
 そんなことを考えながら様々なお店を見てみると、細かい箇所まで手が行き届いているお店と、そうでないお店との差がはっきり出ているということに気が付く。