なぜ、その工務店は盛大な引き渡しにこだわったのか

 親の代からの工務店を引継いだ私の知人の話。
 結婚して3人の子どもにも恵まれ、クルマを新調すべくディーラーに立ち寄った。そこで自分たちの生活にあったミニバンを購入しいざ納車の段になった。
 今まで新車納車と言えば、親の代から営業マンが家に届けるものと思っていたが、その時は営業マンに勧められるがまま店頭に新車を取りに行った。そこで彼は思いもよらぬ衝撃を受ける。クルマと書類の説明が終わり帰ろうとしたときに、営業マンに促されクルマに行ってみると、スタッフ皆がクルマの前に並んでいる。納車式を行います…と。
 恥ずかしいやら照れくさいやら、しかし突然の出来事に思いがけず感動した。
 時が経ち彼は父親の会社を継いだ。ある日いつものように自社で施工した戸建て物件をお客さまに引き渡す。いつものように住宅の設備について使い方や手入れ方法の説明をする。その後に書類関係、手続きやその他諸々、いつものように流れるような説明で数時間。お客さまは何を話しても感動してくれるが、新築だから当たり前…何かが足りない。
 その時にあの納車式を思い出した。300万円に満たないクルマを買っただけであんなにも店舗の皆が最高の演出をしてくれる。しかも最後には記念の家族写真まで。思えばクルマと一緒に自分が写真に納まることも家族で一緒に写真を撮ることさえない。あの瞬間って貴重だったのだと。しかも完全にサプライズで…。
 それから彼の会社では、