なぜ、昭和のトップセールの手法は今でも若者に響くのか

 その老人は、80歳を過ぎてもなお、周囲の人に様々なアドバイスを送り続ける。その日、私の隣に、今年社会に出て、ある機械メーカーのセールスになったばかりの若者が座る。その向こう角、ちょうど90度の位置にその老人。
 老人は、昭和30年代半ば、中堅の菓子問屋にセールスとして就職、すぐに先輩たちを追い抜き、数年後にはその菓子問屋でトップセールスに上り詰めたという。
 そして今、その時のセールスとして成功した経験談を、隣に座る令和の若者に語る。傍目で聞く私は、正直なところ、昭和のしかも50年以上も前の話を今の若者が聞いて、役に立つのだろうかと思っていた。
 だが、その若者は注がれたお酒に口もつけずに、真剣にその話を頷きながら聞いている。例えばそれは、お客さまを敬うことや、お客さまの気持ちを読み取って先回りしたセールス活動を心がけること。さらには競合他社の製品を悪く言ってはいけないことや、苦境に立たされた時は、頭が汗をかくほど考えることなど、私も実践していたことであり、部下にも口が酸っぱくなるほど指導したことだ。
 また売り先がなくなったと思った瞬間に、もう一度自分の周囲をよく見て、どうすれば買っていただけるお客さまを掘り起こせるか考えるなど、この紙面でも何度もお伝えしているような内容のことも老人は説いていた。